バブル絶頂期、新卒でいきなり海外フリーランス翻訳家になったチカさんにインタビュー:翻訳家になるには?

どうも、フリーランス翻訳家として普段日本文化やアート関連の翻訳をしているwasabi( wasabi_nomadik)です。

フリーランス翻訳家を名乗っていますがまだまだキャリアは浅い私。前々からベテランの翻訳家さんに仕事のお話を聞いてみたいと思っていた矢先、Twitterを通じて同じくドイツ・ポツダムに住むフリーランス翻訳家であるキーツマン智香さん ChikaCaputh )と知合うことになりました。インターネットってすごいです。

事の始まりは、初日で3000PVを記録した私のバズ記事「新卒を捨て、いきなり海外でフリーランスになってみて思うこと」を読んでチカさんがメッセージかTwitterでメンションを飛ばしてくださったのが始まりだったと思います。

大前提として、私の新卒フリーランス話は「インターネットがこんなに発達して、誰にでも身近に使えるツールとなったからこそ、働く場所が関係なくなった」ことを主張できたわけであって、インターネットなしでは新卒でフリーランサーとして海外で生きるなんて考えられなかったと思います。

 

チカさんの経歴が非常に面白いのは、バブル絶頂期の就職難などまったくなかった時代、そしてインターネットで情報収集や仕事をすることがまったく主流でなかった時代に、ぽーんと日本を飛び出して新卒でフリーランサーになってしまったことです。

そんな彼女がどうやってフリーの翻訳家になったのか、そしてどうしてドイツに来る事になったのか等彼女がここまで辿ってきた経緯をインタビューさせていただきました。翻訳家志望の方や、海外で働ける職業として翻訳に注目している方々の参考になれば幸いです。


ポツダム在住の翻訳家、キーツマン智香さん
ポツダム在住の翻訳家、キーツマン智香さん

翻訳との出会い

wasabi(以下略:わ):今日はお時間を作って頂きありがとうございます。チカさんは現在、日英独のフリーランス翻訳家としてお仕事されていますよね。ドイツ語の前に英語を習得したチカさんですがそもそもチカさんと英語の出会いは何がきっかけだったんでしょう?

 

キーツマン智香さん(以下略:チカさん):私は北海道の旭川出身なのですが、高校二年生のときにアメリカへ留学へ行ったんです。幼少の頃から英語の絵本や童話を眺めているのが好きダッタし、海外の物語が好きだったんです。父親の方針で、「女の子は四大を卒業してもキャリアを積むのは難しいかもよ?」と言われて、英語というスキルを身につける事を進められたんです。それで、大学受験の代わりに高校三年生のときに英検一級を取得しました。

 

:英検一級・・・!すごいですね!お父様も、「学歴よりスキル」なんてその当時の水準からしたら相当先見性があるお方ですね。

チカさん:父は旭川で私塾を経営していたので、その子にあったそれぞれの指導をするのが得意だったからだと思います。

:なるほどー。大学受験をしなくていいから、英語を頑張りなさいなんて現代の親でもなかなか言えない事だと思います。

チカさん:そうかもしれませんね。ただ、私が英検を取得してからまだ大学受験までに約3ヶ月あったんです。だから、進路変更をしてそこから受験勉強を開始して英語、国語と小論文で受験して早稲田一文に入学しました。

:・・・すごすぎます!そこから、日英の翻訳家になったのはどんなきっかけがあったのですか?

チカさん:最初は東京のオフィスで事務のアルバイトをしていたんです。そこで「チカちゃん英語できるよね」ってことで日英翻訳の仕事をもらいはじめました。その仕事は大学卒業するまでやっていましたね。途中で英会話講師なんかも経験しましたよ。

新卒でフリーランサーになったきっかけ

:なるほど〜。最初は「アルバイトで翻訳」っていうのは私も同じ経緯を辿っています。それで、就職活動はせずにそのまま翻訳家になったわけですね。それはどういう理由からなんですか?

チカさん:私が卒業したのは1989年で、当時はバブルで就職難などありませんでした。だから周りの友達は就活に励む人が増えたのですが私はどうしてもやる気になれなかったんです。というのも私は旅行が大好きで。旅行と行っても短期間でちょこっと遊びに行くというのではなくて、その土地にステイして文化の深いところを知りたいという気持ちが強かったので就職してしまったら休みもとれないし、せっかく身につけた英語も会社で本当に使えるのかどうかは分からないですよね。私はどうせ会社に入っても2~3年でやめてしまう気がしていたし、実際学生のときからやっている翻訳アルバイトだけで会社員の初任給より稼げていたんですよ。だから最初の頃はそのアルバイト関係の人から仕事をもらいながらフリーランスで翻訳をやって1ヶ月休みをとって旅行したりしていました。

 

:チカさんの「海外に行きたい!」という強い思いがフリーランサーになったきっかけなんですね。とても良いと思います。最近日本で持ち上げられる日本のフリーランサーのモチベーションは長時間労働からの解放だったり、会社という組織から外れて生きる、ある種オルタナティブな生き方としての面が強い気がしていますが、実際稼げるからフリーになるという選択肢も見過ごせないですね。翻訳に関してはおそらく当時の方が英語ができる人も貴重だったので今より単価が高かったことも関係しているとは思いますが。

 

チカさん:そうですね、今は翻訳の単価もどんどん下がって来ていますね。だからこそ、専門性を身につけるのはとても重要ですよ。

 

:チカさんは翻訳家になるためにスクールに通ったり、資格取得をしましたか?

チカさん:スクールには行ってないですし、資格も特別にとったわけではありませんね。最初からいきなり始めた感じです。通信講座で授業を受けたことはあります。

 

:習うより慣れろ、ですね。通信講座は役にたったと感じていますか?

 

チカさん:はい、そうですね。翻訳といっても分野がいろいろあるので、講座を通して自分はどんな分野の翻訳をしたいのかを考えるきっかけにはなりました。ただ、当時でもいきなりフリーランサーは変わっていましたよ。普通は会社勤めから翻訳を経験して独立するケースが一般的です。

 

:その時は「こういう翻訳家になりたい!」、とか目標があったんでしょうか?

 

チカさん:あまりないですね。「とにかく海外に出て世界を見たい」という気持ちが強かったので海外でもできる仕事として翻訳という仕事を選んだので、最初は翻訳家としてどうなろうとか、目標があったわけではないです。当時はフリーランサーもフリーターという言葉もなくて、周りからは「国際プータロー」と呼ばれていましたから。(笑)

ドイツへ移住、そして味わった挫折

:国際プータロー・・・すごい呼び方ですね(笑)それでチカさんはどういうきっかけでドイツへ移住を決めたのですか?

チカさんの仕事部屋にて取材。
チカさんの仕事部屋にて取材。Photo By Genki Takata( Genki119

チカさん:本当はアメリカに戻ろうと思っていたのですが、また大学で勉強したいと思っていたので、ドイツは学費が無料と聞いてすごく魅力を感じたのです。それで、英語は割と苦労せずに習得できたからドイツ語もなんとかなるだろうと思って最初に学生ビザでケルンに来たのですが、考えが甘かった。ビザの関係で大手の語学学校に入る必要があったのですが、大手学校はケアが少なめでドイツ語も思ったより難しくて全然伸びず、学校をやめてしまったのです。その時は冬で寒くて暗かったのでより一層気分が落ち込みましたが、日本のアパートは引き払っているし帰る選択肢もなく・・・。そこで挫折を味わいましたね。

 

:そんな苦労があったのですね・・・そこからどうやってドイツ語を勉強する気になれたのですか?

 

チカさん:当時1990年のドイツは英語を話す人も本も少なくて。日本語の本なんてないし、あってもものすごく高かったんです。学校をやめてぼーっとしている時期、ケルンの街を歩いていてふらりと入った書店にドイツ語の本がたくさんきれいに並んでいたんです。それを見ていたら「こんなに本があるのに私は読めない」と思うとツーっと涙が流れて来て。それがきっかけでドイツ語を頑張ろうと思ったんです。本好きの私にとって読めない事が苦痛だったんです。

 

:チカさんにとってそれが決定的な出来事だったのですね。それかたドイツ語を学び、現在はドイツ語翻訳もされているチカさんの努力には頭が下がります。現在は英語、ドイツ語とどちらの翻訳が多いのですか?
チカさん:今はドイツ語が7割、英語が3割くらいですね。私がこちらに来た当時は英語だけできても仕事がなかったのです。なのである程度ドイツ語ができるようになったら翻訳者としてドイツ語翻訳もいきなり始めてしまいました。何でもやるしかなかったんです。
:ドイツ語翻訳もいきなり始めてしまったんですね、それはスゴイ!現在は「医薬」「医療関連」「科学記事」などを専門とされていますが、それにはどういったきっかけがあったんでしょう?
チカさん:日本の大学は英語と小論文だけで入ったので、これといった専門が自分にはないことがコンプレックスでした。ドイツには法律系と技術系の翻訳に需要があったので、自分は技術系の翻訳を専門にしたいと思って、イギリスのオープンユニバーシティー(通信)でその分野を学び始めました。

ドイツで仕事を得るためにしたこと:専門性を身につける大切さ

:すごい努力です。一番気になるのが、インターネットが普及していなかった当時はどのようにして仕事を得ていたのですか?営業活動等もしたのですか?

 

チカさん:ドイツの日系企業から仕事をもらっていました。日本でフリーランスとして取引をしていたクライアントの支社がたまたまケルンにあったのでしばらくそこで働いていたのですが、大学に行く事になったら大学の場所が会社からかなり遠くて通勤が難しくなったんです。そこで、当時の彼(現在の旦那さん)の名前で翻訳会社を設立してチラシをつくって日系企業に配っていましたね。当時はそうするしかなかったんです。

 

:インターネットがない分、行動がダイレクトですね。翻訳していてわからない単語などが出て来たらどうしていたんですか?私はネットなしじゃ翻訳考えられません・・・。

 

チカさん:当時は分からないことがあったら図書館に走って調べていました。ドイツ語から日本語訳の専門書等当時はありませんでしたから、英語とドイツ語対訳になっている本を調べて、英語を経由して日本語に翻訳していました。

 

:英語がわかる事は無駄ではなく、大いに役立っていたということですね!

 

チカさん:そうですね。そんな私もケルンで働いている時代にバブルが崩壊して日系企業がすごくダメージを受けて、私も一時期は食べられなくなったこともありました。日本をすぐ出てしまったので遠回りした反省もあって、だからこそ専門分野を学ぼうと思ったし、これから翻訳家を目指す方にも是非専門性を身につけて欲しいと思います。

 

:チカさんにとって翻訳の楽しさ、そして難しさとは何ですか?

 

チカさん:翻訳の世界を通して新しい世界を知る事ができるのが一番好きです。本当、これが何よりも好き。一人の人間が全部のジャンルを扱うのは無理なので、私は専門をサイエンスに絞っています。アカデミックな文がすごく好きなんです。難しいのは日本語からドイツ語や英語に翻訳するとき。日本語は複数形がなかったり、主語がなかったりしても成り立つので、翻訳に必要な情報が足りないときがよくあるのでそこは推測するしかありません。

 

:それは私も納得です。本当に日本語から英語って翻訳不可能な表現が多くて毎回頭を悩ませます。でも、推測して翻訳した内容がクライアントの意図する内容と食い違っているかもしれないというのは怖いですよね。

 

チカさん:はい、それが一番怖いです。だからこそ、その分野についてよく勉強しておく必要があるのです。

好きな事が仕事になる

:質問もいよいよ終わりに近づいてきました。同じく在宅で仕事をしている身としては在宅で勤務をしているチカさんの1日のスケジュールが気になります。

 

チカさん:予定は、決まっていないですよ。目が覚めたときから仕事を始めて、寝るまで好きなだけ仕事しています。そもそもフリーランスをやっている意味は、毎日決まった時間に決まった場所に行くのが嫌だったからですしね。夏は日の出とともに、冬はいつまでも寝てる事も。

大抵は朝起きてコーヒーを飲みながら新しい情報をチェックしつつメール返信を1時間ほどします。それからシャワーを浴びていざ仕事にとりかかります。お昼に犬と森に散歩に出かけてリフレッシュしてまた仕事を始めたり。仕事と生活の境目がないんです。大きな仕事があるとずっとそれを考えていますが、納品したら頭を切り替えます。仕事があるときは時間は決めず、あるだけやります。仕事が好きな事だから苦にならないんです。
チカさんの仕事部屋の窓から見えるのどかな風景。
チカさんの仕事部屋の窓から見えるのどかな風景。Photo By Genki Takata( Genki119

:素晴らしい!働く事は辛いっていう概念自体、私は壊したいと思っているのでチカさんの考えはすごく共感できます。在宅って運動不足になりがちですが、何かスポーツはしていますか?

 

チカさん趣味が自転車で、スポーツバイクに乗っています。夏は毎日近くの湖で泳いでいます。犬の散歩は天気が良いと1時間くらいすることも。

 

:チカさんの周辺環境、すごく緑豊かですよね。私もお宅に来るまでのサイクリング、すごくリフレッシュできました!最後に、翻訳を仕事にしようと目指している方にアドバイスや伝えたい事はありますか?翻訳者の適性があるってどんな人でしょうか?

 

チカさん:これが在宅の翻訳者に向いている適性とかはないと思っています。「在宅できない」という声をよく聞けれど、そんなことはないです。好奇心が強ければこれを勉強しようと思える原動力になります。性格の問題ですね。多くの人は準備ができてから、というけどそんなこと言っていたらいつまでもデビューできないのである程度言語を習得したら翻訳家として翻訳を始めるのがいいと思います。

 

:まずは実行!のチカさんの考え方、もっと多くの人が持てるといいなって思います!今日はロングインタビューをありがとうございました!

 


 

チカさんとのインタビューを通して感じたのは、彼女の限りない「未知なるものへの好奇心」です。

これがチカさんの行動の原動力の全てと言ってもいいのではないでしょうか?チカさんはこれだけキャリアを積んでいますが、それに甘んじる事はなく「まだまだここで終わりたくない」と言います。

私は女性としても、一人の人間としてもチカさんの向上心の高さや、変化を恐れない姿勢をとても尊敬しますし、それがすごく共感できる部分でもあります。興味があることに「とりあえず飛び込んでみる」ことや、「とりあえずやってみる」ことって翻訳に限らず全てのことに関して言えると思うのです。

 

知りたいと思う欲求に素直に行動して飛び出してみるからこそ、いつもと違った景色が見えてくるのです。

そして、人間の進化には変化と、ほんの少しの、変化を恐れない勇気が必要なのではないかと思う今日この頃です。このインタビューが何かに挑戦したいと思っている方の背中を押せたら嬉しいです。

 

▶チカさんは自身のブログ「Sci-Tech-Germany」にてドイツのサイエンスやテクノロジー関連の情報を発信しています。日本語の情報がなかなかない貴重な情報を発信されているので、是非こちらもチェックしてみてください!

 

ちなみにこれは私が大学時代に受けていた翻訳講座の先生が書いた著作です。翻訳家になることのイメージが掴みやすい内容になっています。リズミカルな文章で読みやすいのでおすすめです。

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