書評:イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言

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どうも、日常的にベルリンの日本文化を取材しているwasabi( wasabi_nomadik)です。

私がこちらに来て一番驚いたのはドイツと日本の親和性の高さです。ベルリンにも様々な日本食レストランがオープンしていて、茶道や生け花など日本関連のイベントもよく行われています。私はヨーロッパを色々旅してきましたが、ベルリンほど日本文化に造詣の深い人が多く、日本食も簡単に手に入るヨーロッパの都市を私は知りません。ドイツ人は日常的に日本食やその他ベトナム料理を始めとしたアジア料理を抵抗なく食べていてビックリしたものです。(時には納豆食べられる事を自慢されたり・・・笑)

 

ちなみに私はTadaima Japanという媒体で「ドイツで日本発見!」というコラムを書いていますので、こちらも興味があったら覗いてみてください。

自分の大学の専攻がコミュニケーション関連だったこともあるし、仕事で日本文化に触れる機会も多いので常にドイツと日本を比較してものごとを考えるのが好きです。そんな私が最近読んだ本、「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言 」が非常に面白かったので感想をシェアしたいと思います。

 

この本の筆者、デービッド・アトキンソン氏はアメリカの証券会社ゴールドマンサックスで働いていた経済アナリストで、日本在住歴は25年以上。茶道愛好家でもある彼は、その実力を認められひょんなことから日本の国宝や重要文化財を修復する会社の社長を任される事になります。この本ではそんな彼がイギリス人の目線で見た日本の誇る「おもてなし」、「日本の経営の難点」や「経済復興の神話」について数字や具体的事例を持って客観的に分析し、指摘しています。私が特に共感した章を以下3つ選んでまとめてみました。

 

日本の経営者にはサイエンスが足りない(第3章)

外資系企業のアナリストだったということもあって、著者は何事にもかなり「数字」や「データ」を重要視します。これらはビジネスをするうえでは避けて通れない、会社や個人の未来を決める重要な要素であることは言うまでもありませんが著者が日本で働いていて感じた事は、日本ではデータよりも精神論が重視されるということだそう。明らかに業績が落ちている社員に向かって「もっとレポート(データ)を書いた方がいい」とアドバイスするも、「自分は朝早くから夜遅くまで一生懸命働いているから大丈夫」と言い返された自身の経験を綴っています。私個人的にもそういう経験があって、その度に「なんでこの人は理論的な話ができないのか?」と思ってしまうこともあったのは事実。しかしこういう発言の裏には結果を出さなくても一生懸命やっていればクビにならない日本の会社の風土があることも忘れてはいけません。(でも外資系企業で働いていたこの社員さんは結局クビになったそう)日本はつくづく優しい国だなぁと思います。個人的には「一生懸命やっている」という言葉はもはや甘えだと思っています。それが仕事であり、給料という対価をもらう以上結果が全てに決まっています。

 

日本は本当に「おもてなし」が得意なのか(第4章)

これは日本の考えるおもてなしが「供給者側のエゴ」になっていないか?という問題を指摘している章です。日本はおもてなし大国としてかなり宣伝(という名のプロパガンダ)を打っていますが果たして外国人観光客の考えるおもてなしと日本人が考えるおもてなしは同じなのでしょうか?筆者は日本人の丁寧さや親切さは外国人観光客を感動させる素晴らしいことだと讃えたうえで、自身が訪れたとある老舗旅館を例におもてなしの融通の利かなさを指摘しています。(チェックイン時間を早める等予想外の対応ができない)

滝川クリステルさんが言うような「おもてなし」を真に受けた外国人は、日本人の多くが見返りも求めずに「客」に奉仕をしてくれるサービス精神の持ち主だと思います。しかし、実際の日本の「おもてなし」は違います。サービスの大前提として、そのサービスを享受する側ではなく〝供給する側〟の都合がまず優先されることが多いのです。(4章から抜粋)

私は日本人が日本人にだけ向けたサービスをするのであれば、今のままの「おもてなし」のやりかたで良いと思っています。日本のおもてなしはサービスがきめ細やかで、日本式のコミュニケーションの中でお互いの了解があって初めて成り立つある種のルールを攻略する楽しさがあると思います。でも、外国人観光客に対しては「おもてなしの押しつけ」にならないように配慮するべきですよね。「日本文化の良さを理解して欲しいから」と思うかもしれませんが、日本人が良いと思うものが必ずしも外国人にとって良いものだとは限らないからです。

 

本書とは関係ありませんが最近面白かったのは日本によく行くジャーナリストの友達が言っていた言葉です。

「日本はサービスが本当に良くて最初は感動したけれど、次第に自分は一つのことに気がついた。それは、日本はどのお店もスタッフの数が多すぎるってことだ!そりゃあ、何でもしてくれるわけだ。」

言われてみれば確かに洋服屋でも飲食店でもスタッフの数が多いからこそ些細な事でもサービスが行き届いているのかもしれないですね。 

そのせいで人件費にコストがかかって物の値段が上がるならば、スタッフの数を減らして商品を安くして欲しいな〜と思うのは私だけでしょうか?

 

「文化財保護」で日本はまだまだ成長できる(第6章)

筆者は日本の観光産業はまだまだ伸びしろがあり、この分野に将来性を見出しているそうです。もちろん、自身が国宝や文化財の修繕会社を経営していればこのように言うのは当然かもしれませんが、私もそう思います。実際アベノミクスで円安になっていることはヨーロッパの人もよく分かっていて「近々日本に行きたいの、今円安でしょ?」なんてよく言われます。しかし、現在の日本の観光業の業績はあまり芳しくないようです。

 

世界ではGDPに対する観光業の貢献度は平均9%だが、日本の場合は約2%

 

日本を訪れる観光客は年間1036万人(2013年)、これは香港(2566万人)の半分以下

(6章より抜粋)

 

これは意外ですね〜。渋谷なんかを歩いていると外国人だらけでバーに入るとたまに半分以上外国人なんてことも当たり前だったりするので肌感覚としてはもっと外国人が来ているのだと思っていましたが。データってこういう思い込みから解き放ってくれるのでありがたいですよね。この数字が強調するのは日本の観光業のネガティブな面ではなく、やはり今後伸びしろがあるということです。この章でもなぜ、外国人観光客を集めるために文化財の保護や修繕に力を入れるべきなのか数字を持って説明しています。日本を訪れる外国人観光客はオーストラリアからの観光客が一番お金を落として行くのに、実際にオーストラリアから来る観光客は近隣諸国の台湾などと比べるとまだまだ低く、この層に向けたマーケティングが必要だと解いている箇所は個人的にも記事のテーマ選びをするうえですごくためになりました。アジア諸国の方が来日人口は多いけれど、単価でいうと落として行くお金は低めなのだそうです。

 

他のレビューを見ていると、「日本人には耳が痛い」とか、自分を批判されたと個人的に受け止めてこの本を批判している人を見かけましたが、彼の言っている事は日本人の視点は気がつきにくいすごく貴重な意見でもっと感謝されても良いと思います。ポイントは、耳が痛かろうが痒かろうが事実は事実なのだということです。そもそも、日本が好きじゃなかったらここまでわざわざ時間をかけてリサーチなんてしないですよ。私はこの本、今の日本の一方的になりがちなクールジャパン政策への客観的な視点を与えてくれる良書だと思うので是非みなさんにもおすすめしたいです。

 

 

この著者の最新本、イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」もおすすめです。こちらはもっと一般的な事例を用いていて前作同様スラスラ読めますよ。

 

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Photo by Nao Takeda 

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